東京都青梅市
薄明仕事着資料館はくめい見るために要る光が、資料を壊す光です。
0 / 50 / 180 / 300 / 750 / 10,000 ルクス ── 立っているのが本展示室です
明治から昭和の野良着・前掛け・半纏を、五十ルクスで見ていただく小さな資料館です。暗いのは演出ではありません ── 布は光で褪せ、褪せたぶんは戻らないので、見ていただくたびに残りが減ります。だから週に三日、一日四時間しか開けていません。
- 本展示室 50 ルクス
- 週3日・1日4時間
- 常設展はありません

- よその国の美術館です。うちの建物でも、うちの収蔵品でもありません。解説は英語で、どこの館かは当方で特定していないので書いていません。
- 写っているものは全部、光を浴びてよいものです ── 油彩(150〜180ルクス)、大理石の胸像、金属と陶(300ルクス)。この館の軸である五十ルクスの段のものは一点も写っていません。布が一枚もない。
- 天井から自然光が入っています。うちの展示室には窓がありません ── 日の光は明るさを決められないからです。
- すべて壁に掛かっています。仕事着は掛けません。吊れば自重で歪むので、寝かせて、傾けた台に置きます。展示のかたちも違います。
- そしてこの部屋がこれだけ立派に見えるのは、そこに脆いものが無いからです。うちの半纏をこの壁に掛けたら、この部屋は暗くしなければならなくなって、こうは見えなくなります。
一Light
光
この館の明るさは六段あります。値打ちの順ではなく、材料の順です ── 布がいちばん暗いところにいるのは貴重だからではなく、脆いからで、土間の藍甕の欠片が明るいところにいるのは、光では何も起きないからです。
- 0lx
- 収蔵庫
- 資料が一年の大半を過ごす場所。展示のほうが例外です。
- 50lx
- 本展示室
- 染織と紙。暗いと苦情が来る明るさで、実際よく言われます。
- 180lx
- 道具の棚
- 木・革・漆。布ほどではありませんが、これも褪せます。
- 300lx
- 土間
- 陶・石・鉄。光では褪せないので、ここだけ光がタダです。
- 750lx
- 事務室
- 館内でいちばん明るいのは、資料の無い部屋です。
- 10,000〜lx
- 外
- この布が二十年いた明るさ。館内の二百倍です。
褪せたのは、ここではありません
うちの野良着は、畑で二十年ぶん日を浴びています。夏の屋外は十万ルクスで、この展示室の二千倍です。いまの藍の色は、その二十年の結果で、館はそれを戻せません。できるのは足さないことだけです。
褪せたのは仕事のせいです。これ以上褪せるなら、それは見物のせいになります。
露出は掛け算です
効くのは明るさではなく、明るさ × 時間(ルクス・アワー)です。だから開ける日を増やすなら、暗くするしかありません。週三日・一日四時間は、思想ではなくこの掛け算から出た数字です。
だから常設展がありません
五十ルクスで一日四時間なら、布に出せるのは年に七十五日です。当館の開館日は年におよそ 126 日あるので、どの一枚も一年じゅうは出せません。いつ行っても同じものが見られる、ということがないのは、そのためです。
ついでに一つ。 左が褪せる前の藍で、右が 五十ルクスで目に届くほうです。暗いところでは色を見分ける細胞が働かない ので、展示室の藍は、この画面の左のようには見えません ── この画面は、部屋が見せられない色を見せています。
二Exposure
露出帳
一点ずつ、年に何日出せるかが決まっています。50 ルクスで一日 4 時間ならこれだけ、明るくすればこれだけ ── 掛け算なので、選んでみてください。
資料と、照らす明るさと、一日の公開時間を選ぶと、その資料を年に何日出せるかが出ます。明るくすれば、日数が減ります。
答え
年に 75 日
藍染の野良着は布・紙です。年に 15,000 ルクス・アワー まで、と当館は決めています。50 ルクスで一日 4 時間なら、 一日に 200 使うので、75 日で その年のぶんを使い切ります。
当館の開館日は年におよそ 126 日なので、この資料は 一年じゅうは出せません。
肩と肘だけ色が残っています。当たらない場所だからです。
この予算は当館が決めた数です。保存の分野に国際的な目安はありますが、日本の法令にこの数字はありません。公的な基準ではないので、よその館の判断と違っていても、どちらかが間違っているという話にはなりません。
これは資料に何日耐えられるかの話で、見えるかどうかの話ではありません。見えるかどうかは、次の節の装置のほうです ── 二つは噛み合いません。
三Seeing
見えかた
前の節は資料の話でした。ここは目の話です。同じ五十ルクスでも、見えかたは人によってかなり違います。
同じ五十ルクスでも、見えかたは人によって違います。年齢と、入ってからの時間を選んでください。
答え
五十ルクスでは足りません。
同じ織りを読むのに、60代で7分なら、目安で 125 ルクス ほど要ります。展示室は 50 ルクスです。
- 拡大鏡を受付でお貸しします。光を足さずに、像のほうを大きくする道具です。
- 入口の椅子で 7分ほどお待ちください。目が慣れるだけで、見えかたはだいぶ変わります。
- 傾けた手元台に置いてある資料は、近づいて見ていただけます。立ったままより近くなります。
この装置は、照度を上げるという答えを持っていません。上げれば、前の節の日数が減るからです。
倍率は一般に言われている目安で、当館が測ったものではありません。来館者の目を測ったことはありませんし、測る予定もありません。
この服を着て働いた世代が、いちばん見えにくい ── これは当館が解けていない問題で、解けたふりもしていません。
四Store
収蔵庫
展示室の裏に、窓のない部屋があります。ここが0ルクスで、資料のほとんどは一年の大半をここで過ごします。
- 点数
- 約1,400点(うち借用が約900点)
- 温度・湿度
- 20℃前後/55%前後(記録は毎日つけています)
- 照明
- 作業のときだけ点けます。点けた時間は帳面に書きます
- 一年に出るもの
- だいたい60〜80点
展示室にいる資料は、いま六十点ほどです。残りの千三百点あまりは、今日も真っ暗な中にいます。この館で普通の状態は、見えないほうです。
収蔵庫の写真はありません。撮るには灯りを点けなければならず、その灯りは資料の予算から出ます。写真のために一枚の布を少し褪せさせることになるので、撮っていません。
五On view
出ているもの
いま何が出ているかです。次に出る年まで書いてあります ── 書ける範囲で書きますが、待てない年数のものもあります。
- 藍染の野良着(七点)いま出ています
- 2026年9月4日〜10月26日
- 次は 2028年春
- 前掛け(屋号入り・十二点)いま出ています
- 2026年8月7日〜9月28日
- 次は 2027年秋
- 半纏(背に丸に一)いまは出ていません
- 2026年2月に六週間出していました
- 次は 2029年冬
- 型紙と帳面(紙もの)いまは出ていません
- 2025年11月に三週間
- 次は 2031年以降
- 織機の杼・糸車(道具)いま出ています
- 通年に近い扱い
- 次は 180ルクスなので、布よりはだいぶ長く出せます
- 藍甕の欠片・裁ち鋏いま出ています
- 出しっぱなしです
- しまう理由がありません
陶と鉄には「次」がありません。光で褪せないので、しまう理由がないからです。いちばん粗末に見えるものが、いちばんいつでも見られます。
紙ものの次は2031年以降です。お待ちいただけない場合があるのは承知していますが、早めることはできません。早めるというのは、そのぶん濃く褪せさせる、という意味なので。
六Not a museum
博物館ではありません
- 1
博物館法という法律があって、そこに「博物館」の定義があります。登録という制度もあります。
- 2
ただし登録は任意です。そして「博物館」と名乗ること自体には、制限がありません ── 登録していない施設が、博物館と名乗っても、法に触れません。数のうえでは、そういう施設のほうが多いはずです。
- 3
当館は登録していません。だから、博物館とは名乗っていません。
- 4
登録館には学芸員がいて、資料を保つ義務があって、都道府県が質問できます。うちには三つともありません。それでいて、外から見れば看板は同じです。名乗れば、借りていない信用を借りることになります。
登録を目指してもいません。収蔵の三分の二が借り物で、登録は自館の資料を前提にした制度だからです。いずれは、とも書きません。
ついでに言うと、「資料館」という語も誰でも名乗れます。定義が置かれているのは「博物館」のほうで、こちらは空いているほうの語です。うちが偉いわけではありません。
学芸員は国家資格です。当館にはいません。調査も整理も、二人で見よう見まねでやっています。それが良いことだとは思っていません。
館内の撮影は、フラッシュを使わなければご自由にどうぞ。撮影禁止というのは法律ではなく入館の条件で、当館には禁じる理由がありません(物を持っていることと、写真の権利を持っていることは別です)。
フラッシュだけはお断りしています。一回の閃光は、たぶん大したことはありません。数えられないだけです ── 展示の明るさと時間はこちらで足し算できますが、閃光は誰が何回焚いたか分からないので、帳面に書けません。
七Cannot
できないこと
先に書いておいたほうがよいことです。断りというより、この館の形です。
- 喫茶室はありません。お茶を出すには飲食店営業許可(保健所)が要り、そうなるとこの館は資料館ではなく飲食店の顔を持ちます。水道の水は飲めます。
- 照度は上げられません。近づいていただくこと、拡大鏡、暗順応の時間 ── 出せる手はこの三つで、光ではありません。
- フラッシュ撮影はお断りします。数えられないからです。フラッシュなしの撮影は構いません。
- 資料に触れません。皮脂は落ちません。手袋も貸していません(布は手袋のほうが滑って危ないので、触らないのが答えです)。
- 常設展はありません。同じものが出ている期間は、布なら年に七十五日までです。
- 貸し出しはしていません。三分の二が借り物なので、又貸しになります。
- 収蔵品も、その複製も売りません。売るとなると、中古品を扱う話(古物営業・公安委員会)が出てきます ── そこには立ち入らないことにしています。
- 学芸員はいません。調査の内容について、専門家としての保証はできません。
- 解説を増やしてほしい、というご要望に十分には応えられていません。文字を増やすと、その分だけ暗い部屋に長くいていただくことになるからです。
八Visiting
来かた
初めての方に、先にお伝えしておきたいことです。
1
入口の椅子で、七分
外から入ってすぐは、ほとんど何も見えません。目が暗さに慣れるのに、だいたい七分かかります。急いで通ると、見えないまま出ることになります。
2
拡大鏡を受付で
無料です。光を足さずに、像のほうを大きくする道具です。四十代以上の方には、だいたいお勧めしています。
3
眼鏡はお持ちください
手元用の眼鏡があるなら、それがいちばん効きます。ここでお貸しできるのは拡大鏡までです。
4
スマホの明かりは消してください
画面の明かりは、隣の方の目を戻してしまいます。慣れるのに七分かかったものが、数秒で元に戻ります。
一周は三十分ほどです。長くいていただいても構いませんが、長くいるほど見えるようになる、ということはありません ── 十五分で目は慣れきります。
よく訊かれること
- 暗すぎて見えないのですが。
- 申し訳ありません。上げられないので、拡大鏡をお使いください。入口の椅子で七分お待ちいただくと、だいぶ違います。それでも見えない場合は、受付でお声がけください ── 傾けた台のほうへご案内します。
- なぜ博物館と名乗らないのですか。
- 登録していないからです。名乗ることは法律上できます ── 登録は任意で、名称にも制限がありません。ただ、登録館には学芸員も義務も監督もあって、うちにはありません。看板だけ同じにするのは違うと思っています。
- 見たいものが出ていませんでした。
- 五の節に、次に出る年を書いてあります。布は年に七十五日までしか出せないので、数年先になることがあります。早めることはできません。
- 写真を撮ってもいいですか。
- フラッシュを使わなければ構いません。フラッシュだけは、数えられないのでお断りしています。
- 寄贈したい仕事着があります。
- お預かりできることがあります。ただ、収蔵庫に入れるということは、その布が二度と日を浴びない場所へ行くということでもあります。ご家族で一度、写真を撮ってからお持ちください。
- 子どもを連れて行っても大丈夫ですか。
- 大丈夫です。走ると危ないので、そこだけお願いしています。暗いのは子どものほうがよく見えます ── 目の慣れは早いので。
九The place
館
青梅駅から多摩川のほうへ下って八分、旧・小曽木織布工場の建物です。看板は小さく、窓が塞いであるので、閉まっているように見えます。開いています。
行きかた
- 開館
- 金・土・日 13:00 – 17:00(祝日も同じ)
- 休館
- 月・火・水・木(年末年始、展示替の週)
- 入館
- 16:30 まで(目が慣れる時間を見ています)
- 住所
- 東京都青梅市西分町一丁目7-2(旧・小曽木織布工場)
- 交通
- JR青梅線 青梅駅から徒歩8分/駐車場2台(要予約)
- 入館料は一般400円、高校生以下は無料です。現金のみ。
- 予約は要りません(駐車場だけ要予約です)。
- 館内の撮影はフラッシュなしで自由。三脚はご遠慮ください。
- 資料には触れないでください。
- 飲食はできません。水道の水は飲めます。
小曽木 澄
おそき すみ/館長
祖父の織布工場を継がず、工場が閉じたあと建物だけ残ったので、置きっぱなしの仕事着を並べたのが始まりです。染織の勉強は独学で、資格はありません。
暗い、とよく言われます。そのたびに、上げられないのですと答えています。
滝沢 佳乃
たきざわ よしの/整理・記録
近所で洋裁をしていた方に縫製を教わりながら、点数と状態の記録をつけています。温湿度と照明の帳面は、この人がつけています。
帳面をつけていると、見せるというのは減らすことなのだな、と分かります。
二人だけです。学芸員はいません。顔写真は載せていません ── この環境に生成の道具がなく、実在の方の顔を架空の人物に付けるわけにはいかないからです。丸い印が代わりに立っています。